2011-04-09

坂本龍一氏・河野太郎氏への原子力村からの抗議文 

株式会社 講談社 殿
貴社出版物「ロッカショ」に対する抗議文(抄出)
http://www.engy-sqr.com/media_open/others/rokkasho_kougi080303.htm
2008年3月3日

エネルギー戦略研究会(EEE会議)
有志会員 (個人名は末尾に列記)

貴社出版による坂本龍一氏他の「ロッカショ: 2万4000年後の地球へのメッセージ」
「ロッカショ」の内容については以下のように事実誤認を確認し、問題点を提起します。
「ロッカショ」の問題点
I. 坂本龍一氏の発言部分
「2006年3月くらいに見た、グリーンピースのサイトかな。『1日で通常の原発の1年分』という情報を見てしまった。」 P.32

<objection>つまり、自然放射能の1/100以下のものを坂本氏は問題にされていることになる。同氏が本気でそうおっしゃるなら、同氏は自然界では生きて行けないことになろう。

「プルトニウムはまさに核兵器の原料ですから、そちらへいつでも転用できるという懸念です。」P.37 「1年間で8,000キログラムのプルトニウムが生産される予定ですが、日本はすでに国内外に43トンものプルトニウムを保有しています。」P.52

<objection>我国が所有しているプルトニウムは総て発電を目的としたもので、目的の不明確なプルトニウムは所有していない。現在所有している43トンのプルトニウムの大半は英仏に預かってもらっているものであり、日本の施設に受け入れたものは厳格なIAEAの査察下に置かれ、処理されている。

「今、ニューヨークの自宅は100%風力発電なんです。それまではケチケチ電気を使っていたのが、今はジャブジャブ使っています」P.43

<objection>ニューヨークのご自宅は電力会社の電線と完全に遮断されているのですか? 若し、地元電力会社からの電力に頼っているのであれば、ニューヨークの電力会社は主に石炭火力による電力を供給しているのである。ロングアイランドなどにある風力発電から供給されたものと見做す「グリーン電力購入システム」を利用しているのかもしれないが、実際には電気を使えば、使うほど電力会社は石炭を焚き増す必要がある。

「放射能の被害はたいしたことないという人には、だったら三陸の魚を食べてもらおうと思う。六ヶ所のトマトを食べてください、と言いたい。あなたの子供と一緒に」P.44

<objection>非常に挑発的、情緒的な発言である。再処理工場から放出される放射能による住民の放射線量は上述のごとく0.022ミリシーベルト/年に上限を定められており、これは再処理工場近辺の穀物、野菜、魚介類を食べている前提で算出されたものである。また自然放射能による被曝線量(2.4ミリシーベルト)と比べて1/100以下である。過去に「所沢市のほうれん草がダイオキシンに汚染されている」と報道した久米宏氏の番組で放送局は後に謝罪を行ったが、それ以上の風評被害をもたらす内容で地元住民と共に厳しく抗議したい。勿論、我々は喜んで六ヶ所のトマトも三陸の魚も子供と一緒に食べると申し上げる。

II. 掲載資料の部分
(原子力資料情報室の資料をベースにした放射能放出量と一般人の年間摂取限度との比較)P.67

<objection>例えば、「海洋放出の元素として「トリチウム」は一般人の年間摂取限度の3億2,000万倍」という誇張した数字を出している。

<objection>これは年間放出量を1人の個人が全部吸収したと仮定した場合の計算と思われるが、そんなことが起こる可能性はありえない。希釈された海洋水中に含まれるトリチウム濃度が放出前(あるいは周囲)の海水のトリチウム濃度と比較してどうであるか、また自然放射能に比べて、人間に対する影響という意味で有意の差があるかを見るべきであろう。いずれにしても安全審査で設定されている周辺住民に与える線量の上限(0.022ミリシーベルト/年)をはるかに下回る線量にしか寄与しないものであり、それは自然放射能線量の100の1を大幅に下回るものと言えよう。数字を一人歩きさせるための仮定としかいいようがない。

同じく原子力資料情報室の資料として「六ヶ所再処理工場で事故が起ったら」を参照し、「燃料貯蔵プールに3,000トンが貯蔵されている状態で、内蔵する放射能のうちの1%、30トン分の放射能が環境中に放出された場合、半数致死線量の3シーベルトの影響が及ぶ範囲は134.4キロメートル、急性障害を引起す250ミリシーベルトの影響範囲は691.1キロメートル、東京23区にも被害が及びます」とある。P.69(福島原発の核燃料については脚注参照*)

<objection>ここでいう想定は貯蔵プールの臨界爆発事故が起こり燃料が飛散した場合を想定したか、航空機の墜落事故を想定したものか、全くの仮想と思われる。貯蔵プールは、水が漏洩すればより臨界になりにくくなる。また、航空機の墜落に対しても耐えられるよう建物が設計されている。 

(高レベル廃棄物についての記述) P.70

「ガラス固化体1本に含まれる死の灰は広島原爆30発分にも相当するため、側に立っているだけで30秒以内に致死量に達するだけの放射線を浴びてしまうほど、非常に危険なものなのです。」「管理しなくてはならないゴミの容量はむしろ増加するのです。」

<objection>ガラス固化体は十分な放射線防護を施した容器に封入され、十分な遮蔽を施して保管されている。六ヶ所村工場内にある高レベル・ガラス固化体の貯蔵施設では、2mのコンクリート遮蔽が施されており、貯蔵庫の真上に人間が立ってもなんら問題はない。

再処理したためゴミの量が増加するという主張であるが、使用済燃料をそのまま処分するとしたら、ガラス固化する場合に比べて高レベル廃棄物の容量が約5倍になることを認識いただきたい。再処理によって高レベル廃棄物の量は大幅に減るのである。また再処理工程で発生する低レベル廃棄物は仮に容量が増えてもその浅地処分は容易である。

(世界の安全保障を揺るがす再処理工場)

「エルバラダイ事務局長は、最終的にはプルトニウムも高濃縮ウランも、まったく持たないというのが進むべき方向だとコメントしている。」P.72

<objection>全くの誤解。エルバラダイ事務局長は原子力平和利用を推進しており、ウラン濃縮や再処理を地域ごとに進める国際核燃料センターの創設が望ましいと提唱している。

III. 河野太郎議員の発言部分

「当初7,000億円ぐらいで建てることになっていたのに、最終的には2兆1,000億円もかかりました。そういうことを考えると、「大本営発表」は総コスト19兆円ということになっていますが、最終的には60兆円近い金額になるかもしれません。消費税が何%も上ったのと同じくらいの国民負担になります。」 P.77

<objection>再処理の総コスト見通しは11兆円である。運営費を含めて30年間のコストを対象としているものを、それが建設費と同じ割合で膨張するとするのは余りにも暴論と言えよう。また再処理費は税金ではなく、電気代金の一部として受益者が負担することを認識していただきたい。

<objection>さらに、原子力発電コストは再処理費用や廃棄物処理費、廃止炉費用等を全部加算しても他の電源に比較して一番安いことは、石油価格が27.41$/バレルであった平成16年の経済産業省の電気事業分科会コスト検討小委の検討結果で確認されていることを申し添えたい。

「再処理にこんなお金をかけるならば、その何分の一かを自然エネルギーの開発に使ったらどうかという議論に、きっとなると思うのです。何が起きているのか何も知らされず、何の議論もなく、ただコストを黙って負担するのは、ちょっとおかしいですね。」 P.77

<objection>使用済み燃料の再処理コストは電力コストに含まれている。その上で、一番経済的な電力となっている。電気代と税負担とを混同してはならない。自然エネルギーは「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネルギー法)」で保護されていて、電力会社は市場価格を上回る料金を支払い、風力、太陽光発電による電力を買取っている。再処理と自然エネルギーが投資面でバッテイングするものではない。

「今、使い道のないプルトニウムを作り出すことに多額のお金を掛ける必要はありません。そして、プルトニウムはテロリストにも狙われる可能性があるということも考えなければなりません。」、「しかも、プルサーマルを運転しても、ウラン燃料が1割節約できるだけです。ウラン燃料を節約するために、こんな莫大なお金をかけるならば、ウランそのものをそのお金で買って備蓄しておいたほうが、よっぽど効率的です。」、「日本が保有するプルトニウムが43トンもあって、そのプルトニウムすら使い道がないのに、毎年新しくプルトニウムを8トンずつ作っていくということは、誰が考えても可笑しな話だし、これに19兆円から60兆円近くの負担が国民にのしかかってくるということを知ったら、賛成する人は誰もいないでしょう。」 P.78-80

<objection>将来の化石燃料枯渇に備え、地球温暖化防止の切り札として原子力発電を利用して行くという根本的なところを理解いただく必要があろう。ウラン資源の有効利用のためにも、軽水炉の次には現在国際協力プログラムで開発を進めている高速増殖炉(第4世代原子炉)の導入が強く望まれており、高速増殖炉の運転にはプルトニウムが必要になる。従って、高速増殖炉の開発に合わせプルトニウムを準備していく必要がある(例えば我国で20-30基の高速増殖炉導入を図るには300-450トンのプルトニウムが必要)。 また現在電力会社が進めているMOX燃料利用はこの高速増殖炉の燃料を準備するために不可欠なものである。すなわちMOX燃料は1回燃やすだけでなく、その使用済燃料を貯蔵しておいて、将来再処理すればウラン燃料の約5倍のプルトニウムを回収できる。つまり将来必要な量のプルトニウムを確保するためには、六ヶ所村での再処理とMOX燃料の製造およびその利用がどうしても必要となるのである。プルトニウムを高速増殖炉で再利用することにより原子力発電の経済性が増大し、化石燃料の枯渇に対処できることを十分理解してもらいたい。

再生可能エネルギーに関する産業を盛り立てて、それを次の日本の基幹産業にして、海外に輸出しようと考える方が、僕は日本の将来のためになると思うんですよ。それを、原子力が大事なあまり、自然エネルギーを押さえ込んできたから、むしろヨーロッパの企業が頑張っている状況になっている。」 P.85

<objection>日本は太陽電池では世界一の生産国であり、風力発電機の製造・輸出も盛んである。十分世界をリードしていると言える。

<objection>自然エネルギーは間歇的なエネルギー源であって、例えば日本の自然環境下では風力発電の稼働率は20%以下であり、常にバックアップ発電容量を必要とすること、送配電グリッドに組み込むには電圧、周波数維持の面から限度がある(例:10-20%)ことを認識する必要があろう。将来自然エネルギーで全てを賄いたいというのは1つの夢ではあろうが、エネルギー密度が低いため多大の敷地面積を必要とし、利用には限度があることを認識いただきたい。

「原発が耐用年数に達した順に廃炉にできるよう、天然ガスに少しずつシフトして行く。こうしながら、とにかく全力で再生可能エネルギーに投資して、研究開発をやっていきましょう。」 P.86

<objection>天然ガスも化石燃料であり、石油に続いて生産ピークが来るのは自明である。冒頭で参照したように、シェル石油の社長は2015年にはガスも生産ピークを迎えると予想している。石油・ガスのピーク後はますます化石燃料の価格が上ることが予想され、各国間の獲り合いになって来よう。天然ガス依存はエネルギー安全保障上の対策にはなり得ないのではないか。また上述のように自然エネルギーも電力グリッドの中で収容できる限度があるということを認識してもらう必要があろう。

IV. 多数のアーテイストの発言(P.96-117)

<objection>共通しているのは感情に訴えようとしているところにあるが、これに対する一番的確な説明は、自然にも放射能があるということであり、それによって人類は健康を保ってきたこと、そして原子力発電所および再処理工場による放射能が自然放射能に比べて非常に小さなものであること、世界で450基近い原子炉が運転されているが、チェルノブイル原子力発電所の事故を除いては、周辺住民の放射線被害は報告されていないことなどを知ってもらうことであろう(本書に報告されているラ・アーグ市の例(小児白血病発生率2.8倍)は母集団が小さすぎることによる統計上の誤差範囲と考えられる。同じ資料で隣接地区では0.8倍となっている)。

以上
この抗議文の賛同者
池亀 亮   元東京電力副社長 
伊藤 睦   元東芝原子力事業部長、元東芝プラント社長 
石井 亨   元三菱重工(株)
小川博巳   エネルギーネット代表、元東芝 
小野章昌   元三井物産
金氏 顕   三菱重工業(株)特別顧問、原子力シニアネットワーク代表幹事
金子熊夫   エネルギー戦略研究会会長(EEE会議代表)、元東海大学教授
金子正人   放射線影響協会 顧問
黒川明夫   ISO品質主任審査員
小泉陽大   六ヶ所第一中学校PTA会長
斎藤 修    元放射線影響協会 常務理事
齋藤健彌   元東芝 燃料サイクル部長
齋藤伸三   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力研究所理事長
佐藤祥次   元NUPEC特任顧問
柴山哲男   (株)クリハラント、元三菱原子力工業(株)
白山新平   関東学院大学 人間環境学部教授、工学博士 
副島忠邦   (株)国際広報企画 代表取締役
竹内哲夫   前原子力委員、元日本原燃社長、元東京電力副社長
種市治雄   六ヶ所村在住 会社役員
辻 萬亀雄  元兼松株式会社
中神靖雄   三菱重工業(株) 特別顧問
橋本 貢   六ヶ所村在住 会社役員
橋本 竜   六ヶ所村商工会青年部 部長 
林 勉    エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所理事・原子力事業部長
藤井晴雄  元四国電力原子燃料部、元海外電力調査会調査部主管研究員       
益田恭尚  元東芝首席技監  
松岡 強   元(株)エナジス社長
松永一郎  エネルギー問題研究・普及会 代表
三島 毅   日本原燃(株)燃料製造部 部長  
武藤 正   元動燃事業団 
以上30名
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(manomasumi)
(1)原子力村は莫大な資金力で安心・安全幻想を振りまく為に①テレビなどの媒体広告②言論人への間接的資金提供③新聞社幹部・記者などへの接待③大学や学会への研究費提供などに加え、ご丁寧にこのように本や番組、人に対して抗議を行ってきた。
(2)*本文への注:福島第1 炉心内燃料 合計 257トン 1号炉 69t 2号炉 94 3号炉 94t
使用済燃料 合計 468トン(1集合体172kgとして計算…未確認)1~4号炉 
(3)今となっては抗議文がいかに根拠がないか明白だけれど、教授(坂本さん)や河野太郎代議士やCNIC(原子力情報室)の主張がいかがわしいものであるかのように取り扱われてきた。時代に先駆ける少数者の主張は、こうした事態でもない限り多数の人々に受入れられないのはどうしてなんだろうか。

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