TPPについて私が知っている二、三の事項(3)
Deux ou trois choses que je sais d'elle(3).
クライストチャーチで壊滅的な地震に襲われたその日、当地でアメリカ・ニュージーランド評議会(US-NZ Council)とよばれる団体が主宰する両国の第4回パートナーシップ・フォーラムが開かれていた。
21日からのフォーラムに米側からはデビッド・ヒューブナー米大使(1984年から85年、東京で柿澤弘治のスタッフをつとめた)、カート・キャンベル国務次官補(東亜太平洋担当)、ブッシュ政権で通商代表を務めたスーザン・シュワブ、エヴァン・バイインディアナ州知事(元上院議員)、リチャード・アーミテージ、クレイトン・ヤイター元農務長官(親ブッシュ政権)、クリス・ヒル元イラク大使/元国務次官補(東亜太平洋担当)、国土安全保障省のマリコ・シルバー次官補など、このほかドン・マンズーロ下院議員など8人からなる議員団も参加した。ニュージーランド側は外務貿易省の実務のトップであるジョン・アレン事務次官(元NZポストの最高責任者)などが参加していた。ニュージーランド側の主催者は日本・ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムなどを通し、日本の経済界とも交流の深い現地経済人やロビイストたちだ。
TPP推進がこのフォーラムの大きな目的だった。労組はTPP交渉の不透明さなどを理由に、すでにかなり批判的な立場を取っている。ニュージーランドでは交渉の不透明さ、そして主権侵害がTPP反対の大きな理由になっており、問題点を指摘する『No Ordinary Deal』という本も出版されている(農文協から翻訳出版が予定されている)。「ニュージーランドは「NZ Not for sale」という反TPPキャンペーンが広範に繰り広げられている。
これらの心配を打ち消すかのように、US-NZ評議会のスティーブ・ジャコビ議長は地震の前日に放送されたラジオNZとのインタビューで、TPP交渉が秘密裏に行われている理由をこう述べている。
「交渉内容をオープンにしてしまえば既得権を持つ連中が反対する。家屋の売買や雇用契約はオープンでは行われないだろう。WTOの交渉はすべてオープンに行われた。どういう結末になっただろう。だから、TPPの交渉は水面下で行われているのだ」
また、22日の朝、ジャコビはTVNZの番組に出演し、その中で外国の企業や投資家が主権国により商活動が侵害された場合、政府を提訴でき、勝訴すれば損害賠償を求めることができる条項が含まれるだろうと述べている。しかし、ジャコビは、同じ条項がすでに中国との自由貿易協定の中にも含まれており、何も新しいものではない。その心配は取り越し苦労であると反論している。
これは国対投資家の紛争解決条項(ISDS)のことでNAFTA11章とも呼ばれる。特に医薬品や食品管理、知的財産について、主権が失われるのではないかという危惧がある。例えば、条約締結国が禁煙を決めればフィリップモーリス社などが訴えることが可能であり、ペットボトル飲料の販売を禁止すれば、コカコーラ社などが商業活動を阻害されたと訴えることも可能だと言われている。
昨年12月に暴露されたウィキリークスの米外交電によれば、主席交渉官、マーク・シンクレアはそれほど乗り気ではないようにも伝わってくる。ウィキリークスの暴露した外交電によれば、去年2月にシンクレアは米側に「TPPはニュージーランドにほとんど何の利益ももたらさない」と漏らしたとされている。もし「報酬」があるとすれば、日本や韓国の農産物市場に圧力をかけることぐらいであり、それも長期的にみてのことだと述べたとされている。
「ニュージーランドの企業はアメリカ市場に参入できることになるとバラ色の夢を描いているが、それは現実とはほど遠い」
つまり、TPPはほとんど誰の利益にならないものであることを主席交渉官が認めているのだ(もちろん、これはアメリカ大使館の外交官の印象であり、正確だとは限らない)。
「ニュージーランドの企業はアメリカ市場に参入できることになるとバラ色の夢を描いているが、それは現実とはほど遠い」
つまり、TPPはほとんど誰の利益にならないものであることを主席交渉官が認めているのだ(もちろん、これはアメリカ大使館の外交官の印象であり、正確だとは限らない)。
そろそろ、交渉の内容が明らかにされるべきではないだろうか。日本ではTPPが農業の問題に特化されて報道され、議論されがちだが、そもそも、この交渉が有権者から秘密裏に行われていることの是非を問うべきだろう。