2012-11-21

『遺伝子はダメなあなたを愛してる』

『遺伝子はダメなあなたを愛してる』
福岡伸一 出版2012.3


□ゴキブリ
 おそらく私たちはゴキブリの逞しさ、しぶとさが疎ましいのです。でもそれは勝手な感情です。私たちは圧倒的に新参者にすぎません。流線形の姿態。黒光りのする翅。機敏な動き。それは3億年前から変わっていないのです。ここにあるのは実は美しさです。彼らは地磁気を感知でき、密林でも真っ暗な台所でも正確無比に走り回れます。彼らは氷河期を耐え、恐竜の消長を見てきたのです。私たちに必要なのは謙虚さと時間の流れに対するリスペクトなのです。

□ドリトル先生
 井伏鱒二と石井桃子が翻訳

□花粉症と免疫系
 免疫系は自己と他者とを見分け他者を排除しようとする防衛能力。私を自己規定しているのは脳の働きだと信じていますが、実は自己と他者を明確に区別しているのは、脳ではなく免疫系なのです。
 免疫系は臓器のようなパーツではなく、全身に散らばっている免疫細胞のネットワークです。つまり私は脳に限局しているのではなく、身体全体に広がっているのです。
 胎児のうちに将来に備えてランダムに(百万通りもの)免疫細胞を作り出す。自分の構成成分と反応する抗体は、胎児の一時期に自殺プログラムが発動して無くなってしまう。++残った免疫細胞は自分自身とは反応しない。免疫細胞が反応する以外のものが、自分自身と言える。+つまり、免疫系にとって自己とは、穿たれた空間、すなわちヴォイドです。周囲の存在だけが自分を規定している。
 花粉は毒素も出さないし、増殖もしない。花粉症は免疫系の過剰な防衛反応です。

□卵子
 女性の卵子は、胎児期の最初たった4ヶ月の間に作られる。その数、700万個。この世に生まれる前にその大半が消失し、思春期までに残るのは役割を30万個。生涯に排卵される卵子の数は数百個。

□スクレイピー病(羊に起こる狂牛病) 狂牛病(BSE)
 2011年九州で発病した狂牛病について、報道では人には感染しないとしているが、これはあくまで想定。
・羊に起こるスクレイピー病が牛で発生したのは、羊の死体から作られた肉骨粉が牛に与えられていたため。この病気は、潜伏期間が非常に長く何年も経ってから発病することも多い。
・この飼料を食べさせた牛が狂牛病を発病し、それを食べた人に感染した。クロイツフェルト・ヤコブ病
・病原体は未だ謎。

□子ねずみの飼育から分かること
・遺伝子そのものの有無ではなく、遺伝子の発現の仕方が、行動によって世代を超えて伝達されうる。十分に親がかまうと、子供はゆったりと育つ。手をかけない子供はせかせかと落ち着かない。

□生命にとっての情報
・人間にとっての情報は、記録媒体の中に蓄積されているイメージですが、生命にとっての情報は「現れてすぐに消える」ことが重要。
・生命にとっては変化そのものが情報であり、変化の幅(差分)が、次の反応を引き起こす手がかりとなる。

□味覚
・甘みは糖質、すなわちエネルーギー源である炭水化物のありかを探る重要な手がかりとなる。
・うま味は、タンパク質の構成要素であるアミノ酸に対して感じる味覚。
・辛味 カプサイシン

□線虫 単細胞から多細胞へ
・生命誕生 38億年前 多細胞へ:10億年前
・細胞は増殖するにつれ、2、4、8、・・

**この増え方は「2項対立的」デジタルとアナログ。「ある」か、「ない」かと、「境界」。生命内の情報のやり取りも、基本的にあるか、ないか。*

・多細胞化 分化:専門化と分業
・線虫の細胞数は959個 シドニー・ブレナー:線虫の研究

□腎臓 生命体のフィルター機能
・血液は一日で30〜40回全身を回り、腎臓を通過する。
・腎臓は全ての血液を通過させ、必要な水分・栄養素・イオンを再吸収する。不必要な老廃物や過剰な水分などはそのまま下流へ流されるので、目詰まりを起こさない。
・寒いと尿が増えるのは、発汗量が減るため、その分を尿で調整する。
**水などの冷たいものに触れると、尿意をもよおす。これは事後的に水分量を調節しているだけでなく、事前に寒暖センサーだけでも水分量を調節しているのではないか? *

□LEDと蛍
・冷たい光は、転換効率のいい光。
・電球 10% LED 30% 蛍 90%
・植物が光を捉える能力、電化分離効果はほぼ100% 太陽電池は10%

□DNA
・DNAはあくまで情報のアーカイブであって、命令やプログラムではありません。そこから何が引き出されるかは、その人が生まれ育つ環境に大きく影響されます。
・能力・正確・進路適性、あるいは犯罪傾向と言った社会や文化傾向と切り離せない現象について、DNAの文字列から何かを言うことはほとんど不可能です。

□蝉
・初夏 ニイニイゼミ 「チー」
・ ミンミンゼミ
・暑夏 アブラゼミ 「ジリジリ」
・晩夏 ツクツクボーシ

□小動物と寿命
・小動物ほど体重に比べて表面積は大きい。▷体温維持のために代謝を活発にする必要がある。▷呼吸と心臓拍数が早い。▷細胞が酸素に曝され、酸化ストレスをもたらす。

□肺呼吸 ミトコンドリア 酸化反応
・ミトコンドリア 細胞内部で酸化反応を担っている。
酸化反応:炭素(糖質)に酸素を与えて、酸化(化学反応)によりエネルギーを得ている。燃えかすが二酸化炭素。
・ドジョウ 腸で呼吸できる。
・肺は、消化管から分化した。
・恐竜と鳥の近さは器官機能的な類似性でも説明できる。両方とも気嚢(きのう)を持っていて、吸った時に気囊に空気を溜めて、吐く時には気囊に溜まった空気を肺を通過させて、酸素吸収する。呼吸の往復で酸素吸入ができる。(高度の高い)低酸素状態でも生きていける。酸素吸収の効率が高い。

□落葉
・植物には、動物のような老廃物の排出の機能がない。細胞の内部に特別な閉鎖空間=液胞を作って、有害物質や老廃物を溜め込む。内部の内部に外部を作っている。この液胞にはキャパシティ(容量限界)があるので、落葉によって捨て去る。
・落葉のプロセス:葉で作られた養分を回収して枝や幹に貯め込む。葉っぱの付け根に仕切り壁を作って切り離す。


□アゲハ蝶
・アゲハ蝶/黄アゲハ:黄色地に青い斑紋/黒アゲハ:黒に白い線/アオスジアゲハ/カラスアゲハ
・蝶は味を前足の先で感じる。
・「ニッチ」の本当の意味は、(生態学的)棲み分け。蝶は種類ごとにニッチを持っている。人間だけが共有ではなく占有を求めている。

・マヨネーズが腐らないのは、酢酸によってpH3〜4に保たれているから。

□□あとがき
・あるいは私たち自身が、自分の運命が何者かによって予め決められているという物語が好きなのかも知れません。それが今や、遠い天空の星の運行ではなく、私たちのミクロな内側に潜むリトルピープル=遺伝子の戦略に操られている(という物語)、と信じたいのかも知れません。

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